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【イベントレポート】『カイゼン・ジャーニー』から学ぶ、アジャイル開発とカイゼンの手法

株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。

2018年12月19日のイベントでは「カイゼン・ジャーニー ボクが越境できたわけ ~たった一人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで~」を開催。

書籍『カイゼン・ジャーニー』の著者である新井さんが、これまでに自身で実践してきた組織カイゼンの具体的な手法や、新井さんの勤務先、ヴァル研究所で部署を超えてカイゼンの取り組みを行きわたらせた実体験などを紹介してくださいました。

■今回のイベントのポイント
・アジャイル開発について
・カイゼンの手法
・わたしの実体験

【講師プロフィール】
新井 剛さん
株式会社ヴァル研究所 SoR Dept.部長、株式会社エナジャイル取締役COO、Codezine Academy Scrum Boot Camp Premiumチューター、CSP(認定スクラムプロフェッショナル)、CSM(認定スクラムマスター)、CSPO(認定プロダクトオーナー)。Javaコンポーネントのプロダクトマネージャー、緊急地震速報アプリケーション開発、駅すぱあとミドルエンジン開発、駅すぱあとエンジンの部門長などを経て、カイゼン・エバンジェリストとして全社組織をカイゼン中。同時に、アジャイルコーチ、カイゼンファシリテーター、ワークショップ等で組織開発にも従事。Java関連雑誌・ムックの執筆、勉強会コミュニティ運営、イベント講演も多数あり。

アジャイル開発について

「プロジェクトや組織でモヤモヤした問題あるよね?」と感じることは少なくありません。プロジェクトチームを組んでいても、メンバーが同じ時間に同じ場所にただ座っているだけの関係、いわゆるサイロ化された状態では、こうしたモヤモヤは解消されません。

新井さんは、まず、アジャイルという視点から、そうしたモヤモヤした問題をカイゼンサイクルを回しながら解決していく方法論について解説してくれました。

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▲アジャイル開発とカイゼンサイクルのまとめ

大切なのは、早く軽く失敗して、次に生かすこと。これにより、精神的にも費用的にも時間的にも、無駄が発生せずに済みます。

そして「ふりかえりがとても大事」だと言います。いったん止まって考えることですが、これは失敗を悔いたり、内省や反省をしたりするのでなく、学びの機会、すなわち前進を意味しています。だからアジャイル界隈では「ふりかえり」を、ひらがなで書くことが多いそうです。

また、タイムボックス(期間の箱)で時間を管理することも忘れてはならないそうです。ポイントは、良い気づきの在庫を溜め込まないこと。「倉庫の中にあるものは何も価値を生んでいません。お客さんに届いて初めて価値を生むのです」という言葉にハッとさせられました。

「可視化」と「見える化」はニュアンスが違うというのもポイントです。「可視化」は単に見える状態にすることであり、「見える化」は気づきやフィードバックにつながり、行動につながるカタチにしたものだということ。何でも見えるようにすればよいわけではなく、雑音を取り除いて必要なもの(納期、コミュニケーション)を見えるようにする必要があるのだそうです。

書籍に出てくる手法

カイゼンと言っても、最初から組織単位で進めていくのはハードルが高いもの。そこで新井さんは自分一人で取り組む「ぼっち編」と、チームで実施する「チーム編」とに分けて紹介してくれました。

ぼっち編では、自身のタスクを管理していきます。朝会(といっても一人で行うのですが)で1日の計画を立てタスクボードに乗せ、タスクをマネジメントしていきます。そして定期的に「ふりかえり」を行うのも大切だそうです。

タスクボードは「TODO」「DOING」「DONE」という3つにプロセスを仕分けします。

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▲タスクボードではプロセスを仕分けする

朝会では、1日の計画を立てます。決められた場所と時間に行うのがコツで、自分の1日のスケジュールなので10分程度でOK。ここで「昨日やったこと」「今日やること」そして「面倒だなと思うこと」を仕分けし1日の計画を立てます。

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▲朝会のポイント

ふりかえりは1週間に1度、30分以内で行うのがコツだそうです。プロセスやプロダクトのカイゼン、問題の言語化・見える化を行います。

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▲ふりかえりのポイント

タスクマネジメントで重要なのは、時間を味方につけること。タスクの分割や、誰かに渡したタスクの管理、ヌケモレの防止などを行います。

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▲タスクマネジメントのポイント

チーム編では、期待マネジメントも重要になります。期待マネジメントとは、互いの期待のギャップを埋めていくこと。これは機を逃さず、ギャップがあると気づいたときに擦り合わせていくことが大切だそうです。

チームビルディングに当たって、新井さんがお勧めするのが、ドラッカー風エクササイズ。主語は自分で、何が得意で、どう貢献するかを自己表明し、仕事をする仲間の価値観を知ります。

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▲ドラッカー風エクササイズで仕事をする仲間の価値観を知る

プロセスのカイゼンには「ECRS」という手法があります。これは排除・結合・交換・簡素化のそれぞれの頭文字をとったものです。

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▲プロセスをカイゼンするECRSとは?

A⇒B⇒Cというプロセスがあるとき、ECRSでは次のようにカイゼン策を検討します。

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▲プロセスカイゼンの考え方

わたしの実体験

ここまでは新井さんの書籍をベースにしたカイゼンの手法について学びましたが、今回は新井さん自身の実体験も聞かせてもらえました。

新井さんは、転職を2回、社会人になってからの海外留学を経験しており、ヴァル研究所は3社目になるとのことです。中途採用で後から職場にやってきた人が、職場の仕事スタイルをガラリと変えるのには相当な苦労があったのではないかと想像してしまいます。

転職や留学の経験から、同期がいない、知り合いゼロ、土地勘ゼロでのスタートを繰り返しており、みずから「ぼっち」を選んでいるのかと悩んだこともあったそうです。

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▲新井さんのアジャイル~カイゼンへの取り組み

その第一歩は、ヴァル研究所に入社し、CI(継続的インテグレーション)ツールを自身のプロジェクトに導入し、個人的にアジャイル開発に興味を持ったことだそうです。

何人かの若手が同時多発的に、夕方に読書会や勉強会を自主開催するようになり、やがて全社で認められるようになりました。

たまたまヴァル研究所がそうした取組みに理解があったというわけではありません。ヴァル研究所は、まだインターネットが普及する前に、電車の乗り換え案内ソフト「駅すぱあと」をリリースし、古くからのパソコンユーザーには馴染みのある企業で、新井さんいわく「昭和なスタイルの会社」だそうです。社内には、最初の「駅すぱあと」を開発した60代のベテランエンジニアを筆頭に、50代のエンジニアも数多く在籍しており、当初、なかなか全社に行きわたらせることができませんでした。

しかし、社内の2~3チームでアジャイル開発が導入されていくと、周囲にもアジャイルに興味を持つ人が増えてきます。新しいもの好きは、どこにでも少なからず存在していて、そうした人たちを軸に、次第に広がりを見せていき、やがて多くの社員たちもカイゼンやアジャイルの取り組みに参加するようになりました。

現在は、社内のいたるところに無数の付箋紙が張られたホワイトボードが置かれるようになったとのこと。しかも、開発部門だけでなく、総務部や監査チームでのカイゼンや、販売促進チームでの残業管理などにも同じ手法で取り組んでいるそうです。

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▲社内のいたるところに付箋紙の張られたホワイトボードがあるヴァル研究所の社内

ソフトウェア開発の新しい試みにモブプログラミングというものがあります。これは、複数名がキーボード1個で開発していく手法のこと。たとえば総務部門では、採用のスカウトメールの執筆に、複数名が1台の端末を囲んで1通のメールを仕上げていくモブプログラミングならぬモブワークを実践しているそうです。

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▲開発部門だけでなく、総務部や販売促進チームでもモブワークを行っている

最後に新井さんからのアドバイスがありました。

職場でこうしたカイゼン手法を導入しようとすると、全員が賛同することはまずありません。知的好奇心旺盛なエンジニアや、何かを変えることに対して前向きで気が利くメンバーにフォーカスを当てて、巻き込んでいくのが成功への秘訣だそうです。そして、始めるのに遅すぎることはなく、行動するべきだと思ったときにスタートするべきだと締めくくってくれました。

今回のイベントでは、アジャイル開発やカイゼンの手法だけでなく、新井さんの所属するヴァル研究所の取り組みにも驚かされました。「ぼっち」から始めてここまで全社に行きわたらせたことに感動するとともに、まずはスモールスタートでもいいから行動することの大切さを教えていただきました。派遣スタッフから、就業先の雰囲気までいきなり変えるのは難しいかもしれませんが、朝会など、できることはたくさんあるでしょう。小さく、始めてみませんか?