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増井敏克の「情報のキャッチアップが足りない」ときに読むコラム 第3回 AIでできること、できないこと

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「人間の仕事がAIに取って代わられる」など、なにかと耳にするAIについて。きちんと理解していないと、日々更新されるAI関連のニュース記事を読むと不安が募る…なんて方もいらっしゃるかもしれません。AIへの理解を深めるとともに、AIにできること、できないことを知ることで未来への考え方も変わりそうです。今回のコラムで、一度キャッチアップしてみませんか。

【講師】増井 敏克さん
【講師】増井 敏克さん
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『おうちで学べるセキュリティのきほん』『プログラマ脳を鍛える数学パズル』『エンジニアが生き残るためのテクノロジーの授業』『もっとプログラマ脳を鍛える数学パズル』『図解まるわかりセキュリティのしくみ』(以上、翔泳社)、『シゴトに役立つデータ分析・統計のトリセツ』『プログラミング言語図鑑』『プログラマのためのディープラーニングのしくみがわかる数学入門』(以上、ソシム)がある。

作りたい「人工知能」のイメージを考える

中小企業の社長さんとお話ししていると、人工知能がブームであるという話から、「ドラえもん」みたいなことができるようにならないの?という声を聞きます。ただ、このような話を聞いたときに私が思うのは、コンピュータがどのような動作をすれば「賢い」と感じるのか、という点です。

「人工知能」という言葉から想像するのは、私たちが使っているコンピュータよりも「賢い」動作をしている姿です。ただ、「ドラえもん」は便利な道具は使っていますが、「賢い」とは言えないのではないかと思っています。自分で考えて行動する、「鉄腕アトム」のような存在が理想ではないでしょうか?

例えば、エアコンの制御を考えたとき、現在のエアコンはリモコンなどを使って冷房や暖房、温度設定を行うと思います。このように人間が操作をしている状況は、あまり賢いとは言えません(もちろん、指定した温度に調整する、という機能は素晴らしいと思いますが)。

では、「賢い」エアコンとは何かを考えてみます。例えば、部屋にセンサーを設置し、室温が15度以下になると自動的にエアコンのスイッチが入るようにしてみましょう。人間がエアコンを操作しなくても、センサーによって自動的に動作します。この方法は現在より賢くなったように思いますが、スイッチを入れる温度は人間が設定する必要があります。

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人によって快適な温度は異なるため、「温度設定」は必要なように思うかもしれませんが、これもなくすことを考えてみましょう。設定しなくて済むように、人間の操作を記録して再現する方法があります。

例えば、住人が10日間操作したことを記録し、そこから規則性を学習して使うことを考えます。最初は人間の操作が必要ですが、温度を設定している、ということを意識することなく、自動的に温度設定が可能になります。こうなると、こどもが学習して成長するように、エアコンが賢くなったと感じるのではないでしょうか?

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機械学習とディープラーニングの概要

現在の人工知能の研究で使われている「機械学習」は上記のような考え方に基づいています。つまり、人間が決めたルールや人間が作ったプログラムに沿って動くのではなく、人間が作った学習プログラムと予測プログラムに対し、データを与えるとルールを自動的に生成し、そのルールに沿って予測プログラムが処理する、といった動作をします。

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そして、これを実現するために使われているのが「ニューラルネットワーク」です。ニューラルネットワークは機械学習を実現する技術の一つで、それを発展させたものが最近話題の「ディープラーニング」です。

ニューラルネットワークは人間の脳を模倣した構造で、入力層に対して入力データを与え、出力層から出力されたデータと教師データを比較して重みを更新する、という仕組みになっています。

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もっとシンプルに、「入力から出力を得る関数」をイメージすると、これまでは「入力」と「関数」を人間が与えると、コンピュータが出力を生成しました。しかし、機械学習では「入力」と「出力」を与えたときに「関数」をコンピュータが考える、と言うことができます。

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ニューラルネットワークの階層を何段にも多層化したものが「ディープラーニング(深層学習)」です。これまでもニューラルネットワークを多層化する、という方法は考えられていましたが、コンピュータの高性能化やデータの増加などがあり、現実的な時間で高い精度が得られるようになったという背景があります。

また、これまでの人工知能の研究といえば、大学などを中心に行われていたのに対し、最近のディープラーニングの研究は企業などを中心に行われていることも特徴の一つです。そして、どんどん私たちの身近なところにAIが導入されてきています。

AIによってなくなる仕事

囲碁や将棋などにおいて、コンピュータが人間を超えた、というニュースは話題性もあり、多く報じられています。ただ、人間を超えるコンピュータが登場しても、棋士という仕事がなくなることはなさそうです。

一方で、AIが登場するまでもなく、なくなっていった仕事はたくさんあります。例えば、駅で切符を「切る」仕事は自動改札で大幅に減り、Suicaなどの電子マネーによって「切符」という姿も失われつつあります。また、高速道路の料金所などはETCカードの登場により、エレベーターガールや受付などは自動音声やタッチパネルなどにより不要になりつつあります。

その他にも「マニュアルに沿って行う仕事」があります。マニュアルが作れる、ということはそれをプログラムで実装すれば実現できます。現在実現されていないのは、現実的に高価なハードウェアが必要である、故障時の対応が必要である、といった理由があり、コスト面で見合わないと考えられます。このように、現在は実現するためのハードルが高いような仕事も、AIとは関係ないかもしれませんが、今後はなくなっていくかもしれません。

むしろAIによって置き換えられるものとして、専門的な知識が必要な場合でマニュアル化できないように思えても、「誰に頼んでも結果が同じ」ものが考えられます。通訳や翻訳、税理士の書類作成業務や弁護士の判例調査、医師の診断などといったものは専門的な知識が必要ですが、基本的には求める結果が変わらないものです。

つまり、こういった仕事を行なっている専門家は業務の一部が不要となり、オリジナリティのあるコンサルティングなどが求められると言えそうです。

AIが進化してもなくならない仕事

逆になくなりそうにないものとして、「新しいものを考える仕事」があります。「教師データ」をもとに行われる機械学習を考えると、データがない=前例がないものは現在の方法では実現が難しいと言えます。似たものは作ることができたとしても、それでは意味がありません。

また、「人」であることが大切な仕事もなくなりそうにありません。囲碁や将棋だけでなく、スポーツ選手やアイドル、ミュージシャンなどは「人」を見ることが目的です。毎回同じ結果が得られない、結果がどうなるかわからないものにはワクワク感があります。このように「人」や「人の行動」が求められる仕事、共感が得られるような仕事も「人」ならではだと思います。スポーツのインストラクターなどの「教える仕事」も、「人」だからこそ意味がありそうです。

ただし、現在は心理的なハードルによって「人」でないと嫌だと思っている仕事でも、今の若い人が歳を重ねて世代が変わると一気に進む可能性があると感じています。例えば、身体に触れられるのは嫌だと感じる人が多いため、美容師や理容師といった仕事は、特に女性では抵抗があるかもしれません。しかし、マッサージ機などは機械でも十分だと感じる人は少なくないことを考えると、今後はどうなるかわからないとも言えそうです。

同様に、保育や介護の現場では、人に手伝って欲しいと思う一方で、若い世代であれば機械でも違和感がない、という可能性も。

このように、未来のことはどうなるかわからない一方で、今後は「他の人がやると違う結果になる仕事」こそ、これまで以上に求められる時代が来るのではないか、と感じています。エンジニアとして働く皆さんの活躍の幅は、ますます広がりそうです。AIに関してだけでなく、旬な話題を「なんとなく知っている」から、もう一歩理解を深めたいと思ったときに、本コラムを今後もご活用ください。