第9回 話し手から考えや思いを上手く聴き出す「オープン質問」を実践してみませんか?
このコラムは、人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント田中淳子さんの「対人力養成講座」です。「今すぐできるけど、一生役立つ力」がつくための講義をお届けします。
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【講 師】
人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント 田中淳子
コンピュータメーカー勤務を経て、1996年よりグローバルナレッジネットワークで、ITエンジニア向けヒューマンスキル研修プログラムを開発、実施。著書に『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』など多数。
■今回のポイント
相手の考えや思いを “聴き出せていない会話” をなくす方法は、
・自分の考えや経験を話すことよりも、最後まで相手の言葉を聴いて気持ちを汲みとる
・Yes,Noで答えられる「クローズ質問」より、先を促す「オープン質問」で会話をする
具体的にどんな質問の仕方をすれば相手が話しやすいのかもご紹介していますのでぜひ最後までご覧ください。
いくら質問しても、相手の話を聴き出せない「クローズ質問」
先日、ITエンジニア向けのコミュニケーション研修を担当していた時のこと。「相手の話を丁寧に傾聴しよう」というロールプレイをすると、誰もがことごとく同じような状況に陥いってしまうという興味深い場面があった。
ペアを組み、聴き手と話し手の役割分担を決め、「2017年にやってみたいこと」というテーマで4分間の会話をするというものだ。
A:「ボク、海外に行きたいなと思っているんです」
B:「海外かぁ、いいですね」
A:「具体的にはヨーロッパに行ってみたいんですよね」
B:「へぇ。ヨーロッパですか。パリっていいですよ。パリは、どうですか?」
A:「パリもいいですね」
B:「あと、ロンドンか。海を渡るけど。ロンドン、いいですよ」
A:「パリとロンドンですか。なるほど」
B:「パリからだとスペインとかベルギーに行くっていう手もありますよね」
A:「はい…」
B:「他には…」
Aさんが「海外に行きたい」と言ったら、Bさんは、それに対して「パリは?」「ロンドンは?」と畳みかけるように質問している。「パリはどうですか?」という質問は、「YesかNoか」で答えられる、「クローズ質問」と呼ばれるものだ。
振り返るとこの会話の中でBさんは、ほとんどクローズ質問を投げかけていて、一見Aさんと会話しているようで、実際はAさんの考えを聴き出してはいない。
Bさんに尋ねてみた。「クローズ質問が多かったのですが、何か理由がありますか?」すると、「昨年、ボクも家族でヨーロッパに行ってきたばかりだったから、ついその話がしたくなってしまって。自分の都合で質問しちゃってましたよね」
Aさんに感想を聴くと、「確かに、限定的な質問が多くて、答えを狭められているなと感じました」とのこと。
「Bさん、どういう質問をすればAさんの海外旅行の話を深く聴き出せそうですか?」
「オープン質問ですよね。うーん、どこに行きたいですか?って訊けばよかったんですよね。パリはどうですか?じゃなくて」
オープン質問とは、開かれた質問である。「いつ」「どこで」「誰を」など5W1Hで始まる言葉の質問や、「もっと詳しくお話しください」「それでどうなったのですか?」などと先を促すような問いを指す。
一旦仕切り直して、やり直してみることにした。
A:「ボク、海外に行きたいなと思っているんです」
B:「海外かぁ、いいですね。どこへ行きたいのですか?」
A:「実は、北欧に行ってみたくて」
B:「へぇ、北欧に。北欧といっても色々ありますけど」
A:「フィンランドに興味があって」
B:「どんなところに興味があるんですか?」
A:「フィンランドが舞台になった映画を見たことがあって、それ以来、一度行ってみたいなとずっと思っていて」
1回目と異なり、オープン質問により、Aさんは楽しそうに話し始めた。行きたいのは「北欧のフィンランド」と具体的な希望まで飛び出した。クローズ質問ばかり使っていたらわからなかった内容だ。
自分の意見だけではなく、相手の気持ちも汲みとってみる
別の例を見てみよう。同僚同士の会話である。
C:「今日、お客さんと打ち合わせがあったんだけど、前回決めたはずのことをひっくり返されて、話がまたスタートラインに戻っちゃたんだよね」
D:「ああ、わかるわかる。お客さんが『検討します』って持ち帰ったものが、社内で検討された後、どこかの部署から反対が出たとか、別の要望が出てきたとかいって、打ち合わせで決めたことが全部振り出しに戻っちゃうことあるよね」
C:「ん、うん。そうだね。で、今週中に決めてほしいんだけど、困ったなあ」
D:「でもさー、『いつまでに決定する』って、まずは期日を決めてしまえばいいんじゃないかな。うちのプロジェクトはそうしているよ」
C:「ま、それはそうだよね」
この例でも、Dさんは、「決めたことがひっくり返る」場面は、「社内で異なる意見が出るとそうなるよね」と自分の経験から決めつけ、「期日を決めることが先決では?」と言っているが、どちらも相手に「Yes」か「No」かしか答える余地の残らない「クローズ質問」である。
Cさんは、単に「この愚痴を聴いてほしい」と思っているだけかも知れないのだが、ここでも聴き手であるDさんは、自分の考えや自分の経験を話してしまっている。
この会話も仕切り直しだ。
C:「今日、お客さんと打ち合わせがあったんだけど、前回決めたはずのことをひっくり返されて、話がまたスタートラインに戻っちゃたんだよね」
D:「へぇ、ひっくり返ったんだ。何がどうひっくり返ったわけ?」
C:「1月から導入で、予算は●●で、仕様は××と方向性は決まったんだよね。それが、ユーザ部門に確認したら、『あれもやってほしい』『これも考えて欲しい』とリクエストが出たらしく、担当者が社内調整できずに、こちらに言って来たってわけ」
D:「ああ、そりゃ大変だ。で、その問題、どうしたの?」
C:「お客さん側の担当者の気持ちもわかるんだよね。板挟みになっているんだろうなって。だから…」
今回は、Dさんが「オープン質問」に徹し、Cさんの苦労に対して、「それは大変だ」と気持ちも汲みとって反応している。こうなれば、Cさんは、自分の考えや想いを言いやすくなる。
同意を求めるのではなく、相手に寄り添って聴くこと
整理してみよう。
どちらの会話例も、聴き手側に話し手側と同じような経験やそれに関する考えがあることから、相手の話を引き出すというより、自分の経験を述べた上で、相手にも同意を求めるような展開になってしまっている。相手の話を聴いているようでいて、実はさほど深く聴いてはいない。
気をつけないと、人は相手の話を聴くよりも、自分の頭の中で色々考え始め、相手の話をきっかけに、自分の話を持ち出しやすい。
自分の考えに基づいて相手の話を聴いていては、本当のところや深いところまで話や考えを聴くことができないだろう。
まずは、相手に興味、関心を持ち、「この人は何を言いたいのだろう」「何を私に伝えたいのだろう」と自分の考えや言いたいことは一旦保留し、相手に寄り添って聴くことが大事だ。
これは簡単なようでとても難しい。一朝一夕で身につくものではないため、常に、「最後まで聴く」「クローズ質問よりオープン質問」と自分に言い聞かせる必要がある。ただ、気をつけて実践していれば、だんだんと身についてくるのが「スキル」のよいところだ。諦めずに実践してみてほしい。
(編集後記)
今回もハッとする内容でしたね。会話が弾んでいるように思えても、実は相手からしたらそうでもなかった…なんてことにならないように、自分の質問がクローズ質問になっていないか、意識する必要がありますね。次回は再び話し手側に戻って解説します。お楽しみに。