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【連載】第5回 田中淳子の「人と話すのが苦手だ」と思ったら読むコラム

第5回 聴く側の態度の見え方は、話し手に良くも悪くも影響する

今回は、人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント田中淳子さんの「対人力養成講座」第5回です。「今すぐできるけど、一生役立つ力」がつくための講義をお届けしますのでどうぞお見逃しなく。

過去の連載を見逃した方はこちらへ ↓

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【講 師】
人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント 田中淳子

コンピュータメーカー勤務を経て、1996年よりグローバルナレッジネットワークで、ITエンジニア向けヒューマンスキル研修プログラムを開発、実施。著書に『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』など多数。

ある場所で「対人力」に関する1日セミナーの講師を担当したときのこと。主催者側の担当者が横の方の席でずっと見学していた。休憩時間、担当者から「うちのメンバーのことが気になりませんでした?」と話しかけられた。

「腕を組んだり、のけ反って座ったり、しかめっ面だったりして、態度が『拒絶の合図』になっていますよね。話しづらいのではないかと思って」と心配していたようだ。

「ああ、確かに見た目はそうですけれど、実際にディスカッションしているのを見て回っていると、とても熱心に参加なさっているので、大丈夫ですよ」と答えた。

すると、心配そうな顔をして続けた。「田中さんが気にならないのなら安心しました。とはいえ、ああいう態度を部下や後輩の前でもやっているんじゃないかと思うと、冷や冷やしまして」

「そうですね。私は慣れているのでいいとして、聴く際の自分の態度が相手にどう見えるかということに無頓着だと、職場で部下や後輩の方たちにも同じようなことをしているかも知れませんよね。午後、“傾聴”の話が出てくるので、そこでやんわりとお伝えしますね」

そして、午後。

「聴く側の態度の見え方」という話が出てきたところ、「プロジェクトのメンバーなどと話す際に、パソコンを叩きながら応じてしまうことはありませんか?いわゆる“ながら聴き”です」というと、大勢が「うんうん」とうなずいた。

「そういう態度をとられると、メンバーはとても話しにくくなるんですよね。ちゃんと聴いてくれないんだなと委縮してしまいます」

大勢が苦笑いしながら、「わかるわかる」と言わんばかりにさらに首を縦に振っている。

「他にも、のけ反って座ったり、脚や手を組んだり、しかめ面したり…。そういう態度は、自分はちゃんと聴いているつもりでも、話し手にとっては、拒絶されているようにも見えて、話しづらくなるものです。相手が部下や後輩、メンバーといった立場だと余計にそう思ってしまう。だから、聴くときの態度も侮れないんですよ」

笑顔でそんな風に全体に向けて語りかけると、前方に座っていた男性が、突然居住まいを正した。朝からずっと腕組みをし、険しい顔で参加していた彼は、「これは、まずい」と思ったのか、突然、姿勢よく座り直したのだった。

「●●さんのことではないですよ(笑)」と言うと、「いや、そういう風に相手からは見えるんだな、と思って」と照れ笑いしていた。

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「ちゃんと聴いてる?」と相手に思われないために

誰かの話を聴くとき、相手の言葉を繰り返したり、相手がまだ表現していないあいまいな言葉などを質問で掘り下げたりすると、より深く理解できることを前々回解説した。これはこれでとても重要なスキルだが、それ以前にすべきことがある。

「どういう態度で聴くか」だ。

聴く態度についてたいていの人は無頓着である。でも、どういう態度で聴こうと話し手には影響しないと思ったら大間違いだ。話し手は聴き手を見ながら話しているため、相手の反応はとても気になる。

「腕を組もうが険しい顔をしようが、ちゃんと話は聴いているよ」という人はいるし、たしかにちゃんと聴いている人も多いだろう。だが、問題は険しい顔や拒絶するような腕組みを前にすると、話し手が「話しづらくなる」という点だ。のびのびと会話できなくなる。聴き手の様子や顔色をうかがいながら、こわごわと話す人だっているに違いない。

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話し手から上手く情報を引き出す鍵は、あなたの「聴く態度」

以前、あるエンジニアたちからこんな話を聴いたことがある。

「うちのマネージャー、ボクたち部下が話しかけても、いつもPCのほうを向いたままなんですよ。怖くて話しづらいんです」 「会議の時も、渋い顔をしているものだから、俺たちも段々意見が言えなくなってきて」 「きちんと報告しろ、と言われるけれど、顔が怖いから、差し障りのない報告でお茶を濁してしまう…」

そうなのだ。話し手は、聴き手を良く見ていて、その様子によって、話す内容を変えている。

話しづらい相手だと感じたら、話す量を調節して、減らす。さらに、重要な話より、さほど重要度が高くないことだけ伝えるようになる。

こうなると、聴き手は、手に入れられる情報の量が減るだけではなく、質も下がる。

相手が重要な話をしてくれていなかったとわかり、「なんで今まで話してくれなかったんだ」と文句を言ったところで、相手にしてみたら、「だって、話しづらい雰囲気を醸し出しているんだもん」と思っている可能性もあるのだ。

人の話を聴くときは、話し手が「話しやすい」と思う態度を取る必要がある。特に年齢が上がったり、ポジションが高くなったりすればなおさらである。

たかが態度。されど態度。
聴き手の態度が、話し手の話の量と質に大きく影響することを忘れてはいけない。

【参考:「聴く態度」=「話し手が話しやすいと思う態度」例】
話し手が話しやすいと感じる「聴き手の態度」の例を状況別にまとめた。 自分が話し手になったとき、「聴き手がどういう態度だったら話しやすいか」を思い出し、以下のリストに加え、日常のコミュニケーションで気を付けてみてはいかがだろうか?

状 況

態 度

相手が話しかけてきたとき

・身体をこちらに向ける
・手を止めて聴く
・椅子を勧めて、目線の高さを合わせる
・目を見ながら聴いてくれる
※パソコン操作しながら聴くのは、話し手にとって話しづらいと思わせる可能性があるので要注意

相手が話しているとき

・ゆったりと頷く
・「ええ」「なるほど」などの肯定的な相槌を打つ
・表情が柔らかい
・最後までさえぎらずに聴く
※「でも」「だけど」などと否定の言葉で反応すると、話しづらくなる

話の区切りが出てきたとき

・「なるほど、○○ということですね」などと言い換え、復唱する
・「それでどうなったのですか?」などと先を促す
・「具体的に言うと、どういう状況でしょうか?」などと掘り下げる

相手が言葉に詰まったとき

・焦らせずに待つ
・「○○ということが言いたいのでしょうか?」などと推測して、新しい言葉が出てくるのを促す

※自分が話し手になったとき、「聴き手がどういう態度だったら話しやすいか」を想像して、自分も取り入れてみてはいかがだろうか。

(編集後記)
相手の聴き方を見ながら、話し方を変える、顔色をうかがう経験は誰しもあるのではないでしょうか。意図せず相手に不快感を与えないためにも、普段から聴く態度の見え方を意識する必要があります。
田中さんは、話し手への気遣いのひとつとして、誰かが話しかけてきたときは、必ず椅子を勧めて、目線の高さを合わせるそうです。相手を立たせたまま話すことは絶対にしない。これはすぐに実践できそうですね。
次回は「話す」ことをさらに掘り下げていきます。どうぞお楽しみに。