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【連載】第2回 田中淳子の「人と話すのが苦手だ」と思ったら読むコラム

第2回 話しやすさの鍵は聴き手が握る

今回は、人材教育コンサルタント/産業カウンセラー田中淳子さんの対人力養成講座第2回です。「今すぐできるけど、一生役立つ力」がつくための講義をお届けしますのでどうぞお見逃しなく。

第1回目を見逃した方はこちらへ ↓

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【講 師】
人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント 田中淳子

コンピュータメーカー勤務を経て、1996年よりグローバルナレッジネットワークで、ITエンジニア向けヒューマンスキル研修プログラムを開発、実施。著書に『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』など多数。

「聴く力」は話し手を変えてしまう能力

以前、あるIT企業の部長がこんな話をしてくださった。

「役割上、前に立って、部下全員に対して話をすることがよくあるんですが、部下が皆、聴いているんだか聴いていないんだかわからない態度で座っているんですよ。私の話にうなずくわけでもなければ、首を横に振るわけでもなく、とにかく、無反応。これ、非常にやりづらいんですよね」

わかり過ぎるほどわかる。私も長い講師業の中で、無反応なITエンジニアに数多く出会ってきた。研修で私が何かを話しても、無表情、無反応な人たちが少なからずいる。「不満があるのだろうか?」と話しているこちらが気に病むほどである。

研修の中で、聴く態度が話し手に影響することを体感するためのワークを行うことがある。

ペアになり、話し手と聴き手に分かれる。話し手には、自分の趣味や週末の過ごし方といった話しやすい内容を語ってもらう。聴き手には、「聴いていない態度」をとってもらう。話は聴いていていいし、返事をしてもいいが、とにかく、どう見ても「聴いていないだろう」と話し手に思わせるような態度を取るようにする。この状態で会話する。たった1分だ。

すると面白いことが起こる。話し手は聴き手の態度が気になり、話が先に進められなくなったり、話題があちこち飛んでしまったりする。中には途中で話すのを止め、困惑の表情を浮かべ始める人もいる。相手がわざと「聴いていない態度」を取っていることを知っているにも関わらず、「ちゃんと聴いている?」と聴き手に真顔で詰め寄る人も出てくる。

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1分で体験は終了し、次は、同じ話題で聴き手には「聴いている態度」を意識的に取ってもらう。同じ1分だ。今度は話し手がとても楽しそうに話し続け、話題が迷走することもない。聴き手が反応してくれるので、話が弾み、共に笑顔になっていく。1分経ってストップをかけても話が止まらないペアもいる。

終わった後、話し手役だった人はこんな風に感想を述べる。

「聴いていない態度を取られると、こんなに話しづらいとは思わなかった」 「態度が変わるだけで、これほど会話の展開が変化するとはびっくりした」 「同じ1分なのに、感じる長さが全然違う。1回目はまだ1分経たないのか、と思い、途中から話も止まってしまったが、2回目はまだまだ話し足りないけど、もう1分経ったの?と思った」

この体験では、話し手には何も指示を与えていない。好きなことを話してくださいと伝えているだけである。変化するのは、聴き手の態度だけ。

聴き手の態度一つで会話の弾み方が全く異なることを、話し手の話しやすさが天と地ほども異なることをたった2分で体感できる。「聴き手の態度が話し手に与える影響」を体験した後、ITエンジニアの皆さんに、「普段、話の聴き方に気を付けていますか?」と尋ねると、「うーん、自然に振る舞っていたので、自分の態度がどうなっているかなんて意識したこともなかった」という人が多い。聴き手が「聴いているよ!」という態度を取るだけで話の質も量も変わるのだとわかれば、「“聴く態度”を示すというのは行動レベルでできること。意識して実践するだけだよね」と気づくのだ。

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相手の理解力不足を責めるより、相手を察してみよう

この例から分かるように、聴く側がほんの少し「聴く態度」を示すだけで、会話の流れも中身も話し手の気分も変わる。「聴く態度」にものすごく高度なスキルがあるわけでもない。

では、なぜ冒頭の部長の嘆きのような状態が生まれてしまうのだろう?

ITエンジニアは、察することを苦手とする人が多いような気がする。表情を変えずに聴くと話し手が話しづらいということに想像力が働きにくい。相手が話しづらそうにしていることに気づけない。だから、自分がどんな態度で話を聴いているかということについても無自覚なのである。まったく悪気はないのだが、話し手にとって話しにくい状況を自分が作っていることに気付いていない。

前回お話したように、「察する力」は「想像力」と「観察力」で成り立つ。相手がどう思うだろう、どう感じるだろうと事前に想像することと、目の前の相手と会話する中で相手の反応をよく観察すること。この2つが大切だ。

ここまでは、「聴き手」の「態度」に言及してきたが、「話し手」側にとっての「察する力」とは何だろう?

時々、自分が用意してきたシナリオ通りに淀みなくプレゼンテーションする人がいるが、聴き手にとってわかりやすいストーリー、聴き手に分かりやすい言葉遣いができているか「察する」ことができていない。相手の様子をよく見ていれば、「ここは伝わっていないようだな。別の例を出してみようか」「反応が鈍いようだけど、もしかするとこの用語を知らないのかも」などと気づけるはずなのだが、自分が話すことだけに関心が向き過ぎていると、こういう配慮もなかなかできない。

相手がなぜ理解できないのか、なぜ自分の言いたいことをわかってくれないのか、相手の理解力を問題にしてしまう人がいる。そうではなく、まずはその理由が自分の聴き方や伝え方にあるかも知れないと考えてみることだ。相手の捉え方を想像し、目の前の様子をよく観察し、「察する力」を養うことは、ゆがみの少ないコミュニケーションを行う第一歩だ。コミュニケーションによる時間のロスが減れば、あなたの仕事の成果もより質の高いものになるだろう。

 (編集後記)

 自分が相手に話をするときは聴き手に上手く伝わっているか気になりますが、いざ自分が聴き手にまわると、ついつい話し手のことを考えるのを忘れてしまいます。聴き手の反応でこんなに話し手が変わってしまうのなら、よりよいコミュニケーションのためにきちんと聴いていると意思表示しない手はないですね。次回は、「聴くスキル」「伝えるスキル」を交互に扱う予定です。どうぞお楽しみに。